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Scene.33 書棚から本が呼ぶ声がする!

高円寺文庫センター物語㉝

鈴木いづみ、さん。

TOKYO程度じゃ、受け入れられるのも無理だと思ったもんな・・・・ニューヨークで、世界に羽ばたいて欲しかった。鈴木いづみ&阿部薫・・・・。

『わたしのまえにだれもたつな』『理屈はあとだ、みんな死ね』『感受性が鋭くてしかも元気でいる、というのはむずかしい』

労働争議を抱えながら、元気を奮い立たせて陽気に店長を演じていた頃は、よく降りてきた彼女の発した言葉たちだった。

まさか自宅で首つり自殺をするなんて、享年36歳。モデル、俳優、作家として70年代を彩った、浅川マキと共にわがイコン。若松孝二監督作品や寺山修司の『書を捨てよ 町へ出よう』などの映画で、射すくめられてしまったが、文章まで書く才能にはさらに魅せられた!

あちこちに書き散らかされた彼女の文章が、『鈴木いづみコレクション全8巻』にまとめられるなんて、上梓した出版社の文遊社には感嘆符しかない。

当然これは高円寺に受け入れられるだろうと、『声のない日々 鈴木いづみ短編集』『阿部薫 1949‐1978』とともに、書棚の一角にコーナーを作っていた。

左は、プレミアム・コレクションは2006年刊。中央はSF全集、2014年刊。右がセカンド・コレクション、2004年刊。蔵書が少ないのは何故だ?!

これに応えてくれる高円寺は嬉しい。静かに、ずっと売れ続けてくれる「サイレント・ロングセラー」。

レジに持って来てくれたお客さんに出逢えた時は、眼を見据えて魂の奥底まで「ありがとう」を、伝えたつもりだった。彼女の言葉のまえに、陳腐なPOPはあまりにも失礼と、かたくなに1・2点を面陳にしてPOPに代えていた。

文遊社の営業さんは、あまりにも寡黙。大丈夫ですよ。50も超えた「カリスマ店長」は、すべてお見通し。

小さな出版社が、小さな本屋に来てくれるのは「いづみちゃん」が、高円寺なら売れるってわかっているんだもんね。

『ブコウスキー・ノート』『クール・ハンド・ルーク』等など。本郷台地にひっそり蠢く、こんな出版社が好きなんだ。

 

「おっはよ~みんな!

今日こそ忘れずに、清志郎さんからの年賀状を持ってきたよ」

「わ!

すごかね。お好きな自転車で、体力測定でもしてると?」

「この書き込み、笑える!

『もう自転車いいですから、音楽やってくださいよ』って、マネージャーさんの突っ込みかしら」

「あとね!

都築響一さんと古屋兎丸さんからも、年賀状来てるんだなぁ!」

「わ! どれですか?」

「あら、みなさん。笑顔炸裂で、文庫センターらしさが戻ったわね。

忌野清志郎さんって、やっぱりBIGは律儀なのよ。賀状の温もり感よね!」

「いらっしゃい、大原さん。

店長は先日、笑いの補給だって鈴本演芸場で昼の部に居続けたんですって!」

「昼の部は経験あるんだけど、お年寄りが多くて病院臭くなかった?!

ところで、お目当てがあって行ったの?」

「やっぱ、病院臭いっていうか、薬の匂いですよね。

漫才でね、のいる・こいるなんですよ。落語は圓蔵、小朝、こぶ平でしたよ」

「あら、落語もいいけど。のいこいよね!

律儀な東京漫才の典型って感じで、好きだわ・・・・良かった 良かった 良かった 良かった」

「わお!

大原さん。のいこいさんの真似、フリも巧いじゃないですか!」

「店長、店長。電話、電話。清志郎さんのマネージャーの、大山さんからですよ!」

清志郎さんから2002年の年賀状が、送られてきた!お正月に、こんな愉快な年賀状が舞い込んだら!舞い上がっちゃうよね!

「わわわわわ! みんな、聞いてくれ!」

「そんな、大声ば出さんでも小さな店やけん聞こえるばい」

「あのさ、清志郎さんの新刊でね!

また文庫センターで握手会しようって、言ってくれたんだよ!」

「ゲゲゲゲゲゲ、清志郎さんがまた来てくれるの?!」

「だよ!

みんな、大原さん。一昨年の9月10日、清志郎さんが去り際に『店長。また、やろうね』って、ホントだったぜ! イェイ♪」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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